『無職ソラリスの日常』※移行したためゼロからスタート

宇宙一のダメ人間を見て安心してもらうための日記。

【エッセイ】たった一言で、人を殺せる。

 

 

 

たった一言でよい。

たった一言で、言葉は凶器にもなれば薬にもなる。あなたは人を殺したことがあるだろうか?あなたの言葉で、人を傷つけたことがあるだろうか?

 

人を傷つけた覚えはないのであれば、あなたはきっと、気が付いていないだけだ。

 

誰しもが誰かを傷つけながら生きている。人は人が思っている以上に繊細だと思う。ちょっとした言葉で相手を怒らせたり、傷ついた顔をされたりしたことはなかっただろうか。

 

私には、ある。

誰かを傷つけた瞬間は、「しまった」と思うものだ。けれど人はすぐに忘れる。その人にとって些細な出来事であればあるほど、忘れることで生きていける。

 

いつまでも過去に起きた失敗を覚えていることは、緩やかに首を絞められているのと似ていると思う。そのことに気が付かないまま、自らを殺した人が、日本に何万人いるだろう。

 

最近は10年連続で自殺者数が減っているというが、じつは10代だけ3年連続増加している。再開したとたんに以前と同じように週五日、もしくは私立であれば週六日、学校に行くことを強いられる現在、十代の心はどうなるのだろう。十代だけでなく、世界全体の歯車が、以前のように戻ることは、きっとないのだ。

 

私たちは、当たり前に学校に行き、当たり前に会社に行き、当たり前に家事をすることを強いられる。誰かがそうしなければ生きていけない。社会の決めたレールの上から転がり落ちれば、未来はない。そう、刷り込まれる。

 

どんなに頑張って学校に通い、社会に出るべく就職活動に勤しんでも、うまく『擬態』できなければすべてが台無しになる。社会が押し付ける「明るくて元気」というイメージに辟易している就活生は、どれだけいるだろう。

 

私は怖かった。どこかに属さなければならないと思った。「休日は何人で遊ぶ?」とか、「どこに行くの?」とか、当たり前に休日は友達と遊んで充実した日々を送っているかどうか確認される。一人が好きなので遊ばないなんて、言えるはずがない。

 

私がおかしいのだろうかと思った。世間様から見れば私はおかしいのだ。世間様からみた歪な自分に対する憤りなのか、社会に対する憤りなのかはわからないが、仕事も趣味も世間様が押し付けるイメージに合わせなければならないのだろうか。

 

「ねえ、休日って何してる?」

 

その質問は、なかなかに鬼門だ。「あなたには関係ない」とは言えないから、私はイベントに行ったりショッピングしたり、映画を観たりしていると答える。嘘ではない。

 

学生時代は、誰かと遊ぶより一人で遊ぶ方が楽だった。遊ぶときはたいてい、誘われる側だった。高校の頃は部活が忙しく、大学の頃はごく稀に誰かを誘って遊びに行ったことはあったが、サークルも拘束されるのが苦痛で仕方がなく、一年で辞めた。

 

自分にコンプレックスのない人間なんていないと、思う。ただ、自分をわかってあげられるのは自分だけだ。誰よりも味方してくれるのも、自分だけ。あなたのことは、あなたが一番よくわかっている。

 

経理の仕事はいいと思う。経理でさえ続かなかったら、何もできないと思うよ」

 

母が今朝、言った言葉だ。

 

私は反論した。

経理をやったことないくせに、なんでそんなこと言える?

私の経理で正社員の知り合いは、仕事が大変だと言っていた。

経理の仕事は事務のなかでも大変な部類だ。

 

ただ、何を言っても無駄だと思った。母は、それでも、経理は私には向いていると思うし、母も簿記二級の資格を取っているから、面白いと思うし、できるならその仕事をしてみたかったと言った。

 

資格が何だというのだろう。資格を持っていたって経験がなければ無視されるのに。私がこの言葉に感じた憤りは、きっと母にはわからないだろう。

 

私は、母に相談することを辞めることにした。これ以上、自分が決めることに口出しされるのは我慢ならなかった。

 

言葉は、凶器だ。

 

母の言葉は、私の柔らかい部分を抉った。言い負かしてやりたいと思った。ふざけるなと言いたかった。けれど私は、黙る方を選んだ。怒りのままに放った言葉は、時に相手を蝕み、緩やかに殺すのだ。

 

言葉で誰かを殺してはならない。大事な人を傷つけてはならない。

 

たとえ悪げがなくとも、言葉の魔法は、光にもなれば闇にもなる。

 

犯罪でなくとも、きっと言葉で人を救えるし、人を殺せる。

 

どうか。

 

 

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